小惑星「イトカワ」に着陸する前後から、私はずっと「はやぶさ」のニュースを追いかけていました。一瞬だけ見えた「ミネルバ」の勇姿。見事な着地と、そこで起きた信じられないような状況の数々。そしてイトカワから離れた後の、想像を絶するアクシデントの連続と、それを一つずつ乗り越えてゆく運用スタッフの努力と英知。それらは単なる宇宙探査ミッションではなく、人間と科学技術が織りなすドラマそのものだったと思います。それがどんなものだったか、ここであえて申し上げなくても、これから数多くのメディアが取り上げてくれるはずです。

もちろん、「はやぶさ」は単なる人工の物体であり、それ自体に意識が宿ったりしているわけではありません。彼(という人称代名詞を便宜上使います)にしてみると、地上管制の指示を着実に実行することだけが存在意義であり、それ以上でもそれ以下でもありません。必要以上にはやぶさを擬人化して盛り上げ奉るのは、彼にとってはいい迷惑、とまでは言わなくても、所詮は関係ないことさ、と(もし本当に彼に意識があるのなら)感じることでしょう。
でも、それでも、私達は「はやぶさ」の旅路に何かを感じずにはいられない。その何かは、人によってさまざまだと思うのですが、おそらくほとんどの皆さんが共通して感じたことが一つ、いや二つあると思います。

ありがとう はやぶさ! 君の懸命にミッションを全うする姿は、私達に大きな勇気と希望を与えてくれました。

おかえりなさい はやぶさ! よく地球に戻ってきてくれました。私達は君の帰還を心から歓迎します。どうぞゆっくり休んでください。

そして、無事にカプセルが回収され、その中にほんの少しでも「イトカワ」のサンプルが入っていたら…。JAXAがいう「100点満点で500点」という評価は、それでも低すぎるかもしれません。
そしてもう一つ、大気圏突入直前の「はやぶさ」が、目の前に地球の姿の撮影にどうやら成功したようです。もしそれが本当なら、ボイジャーが撮影した「太陽系の家族写真」に匹敵する、人類の科学映像史に残る1枚になることでしょう。その映像が公表されたら、私はきっと泣いちゃうんだろうなぁ…。

これほどまでドキドキワクワクしながらインターネットの画面を眺めたのは、このサイトをはじめて立ち上げたのを確認したとき以来かもしれません。今夜は、私にとって特別な一夜になりました。
「はやぶさ」プロジェクトに携わった全ての方々、最後の姿をインターネットで中継していただいた関係者の方々、そして7年間宇宙を旅してきた「はやぶさ」に、心からの敬意と、深い感謝を捧げます。ありがとうございました。
そして、次のミッションが無事実行され、今回以上の成果が上がることを、強く願います。…今度は、トラブルが少なければいいですね。

2010.6.13 ほうがん