このサイトを立ち上げて間もなく、いつの日かアニメフロアで「あずきちゃん」を取り上げようと思い立った頃、誓ってもいいですが私はこの作品がLD-Box(そう、当時はまだLDの方が遥かに一般的でした)になる日がくるとは全く予想していませんでした。その後、この作品を初めてこのサイトで取り上げたときにも、DVDが出るとは考えてもいませんでした。アニメーションを産業として捉えるなら、「あずきちゃん」ほど映像メディアの販売で収益をあげるのが難しい作品は近年珍しいほどの存在だと思えたからです。
私のこの見方は、おそらくそれほど誤ってはいないでしょう。収益という概念をあまり考慮する必要がないNHKで制作されたからこそ、この作品は「あずきちゃん」足り得たことは、言うまでもありません。アニメ市場という独特の世界の中ではとても評価されそうに(あるいは売れそうに)ない、ごく普通の地味で平凡なことこそが、この作品の最も大切な部分であり、多くの普通の子供たちをあれほどまでに惹き付けたのです。
でも、私がどれほどそれを高く評価しようとも、売れないものは所詮売れない。だから、やっぱり夢はかなわないんだろうなぁ。

私は間違っていました。

今、私のすぐ横には象牙色の巾着袋があります。その中には手ごたえのある箱が入っていて、それを取り出すと「あずきちゃん」のキャラクターの記念写真となるイラストが目に飛び込んできます。家に帰るまで待ちきれず、帰社時に会社の応接ゾーンでこっそり封を開けてみた私は、そのイラストを見て思わず歓声をあげたものです。大勢のゲストキャラもみんな平等に描かれたこのイラストは、まさに「あずきちゃん」の世界そのもの。どの顔もみんな懐かしい。最終話に登場する巫女さんの顔を見つけたときには、目頭が熱くなるのを感じました。
熱心なファンの方々の署名活動などを契機にして、今日「あずきちゃん」のDVD-Boxは発売され、私はまたまたこの作品の奇跡を見るような思いでこのDVD-Boxを見つめています。これを手にすることができるのはわずか2000名、そして実際に2000名が手にするとはとても思えないのですが、それでもこの作品のDVD-Boxが発売されたことに、私は計り知れない感慨を覚えずにはいられません。制作スタッフやファンの方々はもちろん、このDVD-Box企画を完結させた販売会社の方々の決断と努力には、賛辞を惜しみません。
そして何より、それらの方々とは縁もゆかりもない、ましてやこのサイトがあるなんてことも知らない、「あずきちゃん」を見てくれていたたくさんのごく普通の男の子や女の子、彼らにこそ私の感謝を贈りたいと思います。いいものはいいと素直に受け止めてくれた彼ら子供たちの素敵な感性と熱心な支持があって、はじめてこの作品は価値を得たのです。
私はこのことこそ、この作品の一番大切な部分じゃないかなと思うのです。マニアやファンや評論家のためではなく、普通の子供たちの普通の暮らしのために作られた作品。それが普通の子供たちに愛され、親しまれたこと。それを見ることができたことを、まずは喜びたいのです。

このDVD-Boxにはささやかな特典がついています。私にとってなによりも心を動かされたのが、梱包に用いられたこの巾着袋でした。シンプルな主人公のイラストと口紐があずき色というあたりも嬉しいのですが、それ以上に巾着袋というアイデアがいかにもこの作品にふさわしいように思えたのです。
子供の頃、自分の大切なものはちょうどこんな袋に詰め込んで机の横に吊るして、暇があれば取り出しては楽しんでいたものです。それは他の人にはたいしたことのないつまらない物かもしれませんが、当人にとっては、それが河原の石であろうと王冠であろうとどこかの駅の入場券だろうと、やはりかけがえのない大切な宝物として、ずっと輝いていたのです。
特段飾り立てることもなく、地味で、平凡で、どこにでもありそうな…だけど大切なもの。それを包んでくれるものとして、巾着袋はまさにふさわしいもののように感じられます。それは同時に子供、とりわけ小学校5年生という人生の季節を、これ以上ない温もりをもって私達に思い起こさせてくれるすてきな袋です。その中に入っているのが「あずきちゃん」だなんて、これ以上何を望むんでしょう!
このサイトで取り上げている他の作品同様、「あずきちゃん」も大切な私の宝物です。さすがに巾着袋の「なまえ欄」に自分の学年を書くことはできませんが、その学年の数字がどれだけ大きくなろうとも、この作品をいとおしむ気持ちはおそらく変わらないような気がします。
また、いつまでもそんな自分でありたいな、とも思います。それは自分が大人になりきれないということを望むのではなく、自分の心に素直であることを心に留めておきたいのです。あずきたちが大人になったらきっとそんな人になっているだろう。そう思えるのです。自分はそんな大人からは程遠いけど、でも…