[ほうがんの視点]
最初はルービン達を女スパイとしか見ていなかったケンツですが、ルービンの活躍ぶりを見るにつけ、次第に彼女に惹かれてゆきます。ルービンの姿は憧れの対象として(ここで「恋」という言葉は、ケンツにとって適当でないでしょう。まだ彼はそれが何たるかを知らないのですから)、ケンツの中で急速に大きなものとなりました。
しかし、子供達は再び自分たちだけで旅を続ける決意を固めます。そのためには、自分達をジェイナスに連れてきてくれたルービンさんに、なんとかして戻ってもらわないといけない。
こうして、ケンツはこちこちになってルービンのもとに行き、言いたくもない嘘を告げることになります。そんなケンツの様子をルービンが見逃すはずがありません。それでも、彼女はケンツに何も聞かずにブリッジに行くことにします。ケンツはそんなルービンの優しさに気づかず、ただ任務がうまくいったことに安堵のため息を漏らすだけです。
そして、子供達の作戦は「成功し」、ルービンはエアロックへ向かいます。そこに駆けつけるケンツ!
ここでケンツは何を彼女に告げようとしたのか、とても興味深いものがあります。おそらくは、自分が彼女に嘘を告げたことを詫びようとしたのでしょう。そして、ひょっとすると、「ルービンさんの姿は自分の憧れ(恋ではない)とするところでありましたので、今回のような事態になりましたことを…」などと、顔を赤らめながら話そうとしたのかもしれません。
ルービンにとっては、きっとそれすらお見通しだったことでしょう。ルービンは言葉を続けようとするケンツを遮り、彼女は自分がすべて承知の上でジェイナスから去ることを説明します。そして、「(嘘をつくのが下手な)君が一番好きよ」と、ケンツの代わりに言葉を継いであげます。彼女が敢えて口にすることで、自分をうまく表現できなかったケンツが傷つかないようにするために。そしてルービンは、胸元からペンダントを取り出して、ケンツにかけてあげます。
この時のルービンは「ときどきは、思い出してね」と話すだけです。もちろん、それだけで彼女の気持ちは十分に言い尽くされているのです。
そして、ついに彼女はケンツに現実=今までの生活に戻るときが来たことを告げます。
「ケンツ軍曹、任務に戻りなさい!」
「は、はい!」
こうして敬礼を交わした二人は、微笑みを浮かべます。そのままルービンは、ケンツに振り返ることなくエアロックへと向かいました。
ルービンは、ケンツが自分に憧れを抱いていることを承知した上で、大人としての優しさをもって、ケンツとの別れに臨んでいました。背伸びをしなくても君は良い子だよと教え、そして、最後に自分が「通りすがりの人」であることを認識させて、ジェイナスを去っていきました。
ケンツは、そうしたルービンの「大人の」優しさに気づくことは、おそらく最後までなかったでしょう。でも、彼女に対する感情が、恋というものの始まりなのだということを、そうとは知らないままにルービン自身から教えられたのです。その事を本当に理解するには、もう少し時間がかかるものの、ケンツは初めて、本当の大人の世界に踏み込んだのでした。そして、ルービンの号令と共に、再びいつもの、つまり子供の世界へと戻っていくのです。
もうお気づきのとおり、ケンツとルービンの関係は、ロディとケイトのそれに極めて近いものになっています。しかし、その共通項はあくまでも背景にとどめながら、ケンツならではの交流と、ルービンの持つ大人の優しさを描くことによって、ケンツの束の間の体験を印象深いものとしています。 | 