[ほうがんの視点]
最初の出会いでポールに騙されたケンツは、ポールの言動を全く信用していませんでした。ポールの方も、敢えてケンツの気持ちを解きほぐそうとはしなかったのですが、いつの間にか、二人の間には独特の心の交流が芽生えます。
それは、ある種の似た者同士としての心安さかもしれません。それは単に二人がお調子者であるというだけでなく、年齢や思想は違えども、自分の感じるままに行動していることを、互いにそれとなく理解できたからだと思います。
そんな二人だからこそ引き起こした大失敗は、二人に重くのしかかります。同じ傷を持ったもの同士が並んで腰を下ろしたとき、彼らは自然と心を開きます。
こうして、ようやく話ができるようになったのに、どうして爺さんはこの星に残ると言い出したんだろう?
というケンツの驚きは、すぐに台詞となって現れます。ここでのポールは、お調子者としての一面を見せながらも、いかにも大人らしい思いを語ります(物語全体の脆弱性については、ここでは触れません)。
子供達が言葉を継ごうとすると、シャトルの発進を告げる警報が鳴ります。ポールはこの機を逃さず、子供達をシャトルへと向かわせます。それでもなかなか動こうとしない彼らを見て、ポールは「何をやっとるか!!
早う行け!!」と声を荒げます。
仕方なくタラップを上り始める子供達。しかし、ケンツは急に振り返ると、ポールの元に戻ってきます。ケンツにとっては、せっかく自分と心が通じ合えると分かった人に対して、これまでの非礼を詫びずに別れるということはできなかったのです。
しかし、ここでもポールはケンツの言葉を遮ります。それを優しい言葉ではなく、いつもの罵声で行うところが、ポールの優しさなのです。思いを果たせず、残念そうにタラップに向かうケンツに、ポールはジャムの瓶を差し出します。
このシーンは、14話でのルービンの対応と比較すると興味深く思えます。共に「ケンツが傷つかないように」という配慮からする行動なのですが、ルービンとポールとでは、大きくその内容が異なります。また、二人ともケンツに品物を手渡すのですが、かたやペンダント(私を思い出すよすがとして)、かたやジャムの瓶(ワシに心を開いてくれた記念の品)と、アイテムとその意味合いは好対照です。
ルービンのときには彼女の胸元にどぎまぎしているだけだったケンツでしたが、今度は違います。心を通わせた者同士、すぐにジャムの意味を悟ったケンツは、たちまち感動してしまいます。しかし、ここで涙を見せるようでは、せっかくのポールの気持ちを無駄にしてしまう。だからこそ彼は、振り返ることなく全速力でタラップを駆け上ったのでした。
飛び立とうとするシャトルの窓から見える、レッドベアーの旗を振りながらシャトルを見送るチェンバー夫妻の姿に、ケンツは敬礼を返します。そこには、かつて「少佐」と騙されたことに対する恨みは、もうありません。年こそ違えど、心を通わせあった人物に対しての尊敬と、彼らの新しい人生への応援とが、ケンツの行為には込められていたのではないでしょうか。 | 