カチュアの旅路と子供たち (その4)

ジミーがその事実を受容したとき、カチュアへの感情も微妙に変化していきます。自分を気にかけてくれる人だったカチュアは、いつしか自分と同じ苦しみを分かち合える、大切な人へとなっていました。そこに流れるものは、恋とか愛とは無縁の、あえて言葉にするなら「慕情」とでも言うべきものでしょうか。その思いは、やがてジミーを予想もしない方向に導いてゆきます。
カチュアの今後に関する苦悩を、ジミーが気づかないわけがありません。それまでのジミーであったら、おそらくはそれを受け止める事しかできなかったでしょう。しかし、ジミーはそこから踏み込んで、カチュアがどうすることが幸せなんだろうと、彼なりに考えるようになりました。42話での衝撃の告白は、僕もいっしょに考えるよ、というサインを彼なりに送ったのかもしれません(その瞬間まで、カチュアは一人で悩むしか術がなかったのです)。
結局、子供たちの中で、ククトニアンとして生きるために自分の本当の両親を探すというカチュアの本当の願いを理解していたのは、ジミーだけでした。
一方、いかにカチュアが強い女の子といえども、たった一人、見知らぬ地であてのない目標を追い続けることは、おそらく不可能でしょう。そこに彼女を支える(悩みや苦しみを分かち合える)相手がいないと、いつかカチュアは重圧に耐えきれなくなるかもしれません。
そして、その相手は自分しかいないことも、ジミーは十分理解していました。もともと自分にも身寄りがないこともあり、それがカチュアの幸せになるならばという思いが、やがてジミーにある決断を促します。
ただ、ケンツから「弟にならないか」という誘いを受けて(44話)、ジミーはどれほど嬉しかったことでしょう。その中で、それでもカチュアといっしょにククト星に行くと決心するジミーの苦しみは、想像を絶するものがあります。45話でケンツにハーモニカを渡し、その後二人で手を取りあって喜ぶ場面は、ジミーの胸中を思うと涙なしに見ることができません。


一方のカチュアは、ジミーがそれほどまでに自分のことを考えてくれているとは認識していませんでした。彼女にしてみれば、ジミーは42話以降もやはり守ってあげるべき相手であって、相談相手ではなかったのです。ロディやスコット達からのさまざまな話を聞きながら、カチュアの心は大きく乱れます。ジェダ達のシャトルに乗り込む際、おそらく一度はククト星に戻るという決意を固めましたが、いざ宇宙に出てみると、やはりその後の不安(それはまさにジミーが危惧しているものです)にたじろぎます。
物語中で初めて、カチュアは自分を見失いかけます。その様子を、物語は克明に追っていきます。展望デッキで自問する姿、造花を見つめる姿、そしてトゥランファムのコクピットでロディに声をかけられても頷くことさえできない姿…戦争とは、かくも酷いものなのです。
そして46話、カチュアはクレア達に元気づけられて、地球艦へ向かおうとします。ところが、ジミーがどこかへ去る姿が目に入ります。カチュアは彼を探し、ついに暗い部屋にその姿を見つけます。そして…
この場面で、ジミーは初めてカチュアに対して異を唱えます。「ぼく、どうなるの?」という台詞の前には、「カチュアがククト星に残らなかったら」という言葉があったのかもしれません(ジミーがケンツの申し出を忘れるようなことはありません)。でも、カチュアは、(初回放映時の私のように)それを「僕が地球に行ったら…」と理解して、「私がいるじゃない」と答えます。カチュアはジミーを守ってあげるのが使命だと思っているのですから。しかし、ジミーは続けます「カチュアはママに会わなくて本当にいいの？」
…それは「否定形」ではなくあくまでも「疑問文」でしたが、カチュアがその言葉にどれほど衝撃を受けたかは、想像に難くありません。ジミーは、カチュアが彼女自身の意に沿わない道を歩もうとするのを、見過ごすことができませんでした。ジミーとカチュアの関係は、この一瞬、確かに逆転していたのです。
それでも、いったん二人は地球艦に乗船します(ここで描かれる滅菌灯のエピソードが、二人の心理状態を見事に暗示しています)。カチュアは最後の瞬間まで迷い続けます。そして、他の子供たちが両親の無事を聞いて歓喜する様子を見届けて、二人は静かに艦を後にするのでした。
もし、食堂にあの歓喜の声が響かなかったら、二人はこのまま地球に戻ったでしょうか。もちろん、そうはならなかったはずです。ただ、子供たちの喜ぶ姿に、二人が自分の決意を最終的に固めたことは、確かでしょう。最後のメッセージの中で、カチュアは「ジミーは(ククト星に戻るのを)止めたんだけど、どうしても行くって…」と語っています。しかし私は、おそらくカチュア自身は、結果としてジミーが自分を動かしたことを理解した上で、あえてこの言葉をはさんだのだと思います。それは、別れの悲しさの中にあって、カチュアが仲間たちに見せた精一杯の心遣いだったのです。
そして、カチュアのそんな思いをようやく受け入れることができたロディが、どんなエピソードを最後に見せてくれたかは、説明の必要もありませんね。カチュアとの理解を通じて、ロディも一歩大人への階段を上ったのです。

こうして、カチュアとジミーはククト星に戻ることになりました。それは、一人の少女が、自分の歩む道を見出した姿でした。そして、その道のりは、少女という場所から巣立とうとする一人の人間の、つまずきながらも成長してゆく物語でもありました。また、彼女を見つめ、支えてきたジェイナスの子供たちの軌跡も、珠玉のエピソードとして彼女の周りを彩っていたのです。
おそらく、カチュアはこれからも幾度となくつまずき、悩み、涙を流すことでしょう。だけど、彼女はもう道を見失うことはありません。カチュアは聡明です。そして、そう、彼女の側には、今ではいつもジミーがいるのです。
そしてもちろん、ロディをはじめとする他のジェイナスの子供たちの心が、いつも二人の側にいるのです。
そして、きっと、ケイトの心も…

(2000.05.13)