主旋律(B)から移行部(C)にかけて、画面正面では、一見歌詞と無関係な物語が展開します。少女がハムスターを部屋に連れてきて、一緒に住むようになります。楽しいときには話し相手として、悲しいときにはそれを和らげてくれる相手として…。
この部分は、先に述べたように、新海が意識的に曲の内容をそのままの形で触れなかった結果に拠るもので、一種のサイドストーリーと言うべきものです(失恋物語仕立てですね)。これは音楽をベースにして造り上げた新海独自の世界であって、笑顔という楽曲の世界ではありません。雑然とした部屋の雰囲気、独特の光と空気の質感の描写などは、まさに「新海テイスト」に溢れていて、これだけを取り出せば、まさに新海のプロモーションビデオと言えるほどの出来映えになっています。実際市販DVDでは、この部分のみを取り出した「メイン動画バージョン」というのが収録されているぐらいです。
これはこれでかなりの完成度で見応え十分なのですが、「みんなのうた」で流れる映像としては、ちょっと寂しい気がします。確かに細やかで雰囲気の良い映像なのですが、新海ファン以外の視聴者にとっては置いてけぼりを食らうような印象も同時に与えるかもしれません。ちょっと距離感があるというか、あくが抜けすぎというか…。良い言葉が浮かばないのですが、画像をきれいに見せる過程で曲の息遣いが別のものに変わってしまったような印象を持ちます(失礼)。