●年齢の進み方について

原作とアニメ版との最大の違いといえば、なんと言ってもアニメ版のキャラクターは歳を取らないことでしょう。もう一度確認すると、原作は彼女らが小学校5年生から中学校を卒業するまでの物語であるのに対して、アニメ版では３年間の放映中彼女らはずっと小学校5年生であり続けました。その形式は何であれ、ある作品で主人公たちが歳を取るかどうかは、その作品の骨格までも左右するきわめて重要な設定です。「あずきちゃん」においてはその根本的な部分が漫画とアニメで異なるという、原作つきTVアニメとしては異例とも言える展開になっています。
歳を取らないという設定のおかげで、漫画には描かれたがアニメには登場しない物語が存在します。この項では、そうした「描かれざる物語」を簡単に振り返ってみましょう。

その最大のものは、中学校に入学したあずきと竜一との出会い、そして勇之助との再会から始まる恋の三角関係でしょう。このエピソード群はあずきが中学生に成長したからこそ描くことができたものであり、ずっと小学生のままだったアニメ版でこれを描くことは、どんな描き方であっても不自然さを免れなかったでしょう。
一方で、このエピソード群が原作にとって極めて重要なものであることも事実です。とりわけ、勇之助がいなくなった後、竜一とも離れて独りになると決意することであずきが自分の気持ちにけじめをつけるという描写(第４巻)は、この作品の最大のイベントの一つです。これに相当するエピソードがまったく描かれないという点で、原作漫画とアニメ版は決定的な違いを見せています。
これに付随する現象として、中学生になってから漫画に登場するキャラクター達は、当然ながらTVアニメには登場しません。竜一や緑川といった個性あふれる魅力的なキャラクターは、アニメしか見ていないという視聴者には触れる機会がありませんでした。また、中学生になってあずきが思わぬ形でヨーコと友情を結ぶことになるのですが、TVアニメではそこまで描くことはできませんでした(その代わりとしてジダマとヨーコが少しだけ互いを理解するというエピソードが、最終盤で登場します)。
そして何より、いったんニューヨークに行った勇之助が再びあずきの前に姿を現して、さらにもう一度離れ離れになってしまうというドラマチックな展開は、アニメ版では描くことができないものでした。それを補う形で、アニメ版では勇之助が引っ越してしまうかもしれないというエピソードが登場し、それを通じて二人の気持ちがさらに近づいてゆく様が描かれています。それはアニメ版なりに味わい深いものですが、原作での劇的な展開に比べるとインパクトに欠けるという点は否めません。
その代わりというわけではありませんが、アニメ版では小学生としてのあずきたちのイベントが数多く登場します。いちいち紹介することはしませんが、漫画ではとても描ききれないそれらイベント群を、アニメ版が物語を進める上でフルに活用したことはいうまでもありません。これはあずきたちが小学5年生を３回繰り返したからこそできる芸当なのです。
こうした物語中におけるエピソードの有無は、そのままこの作品のメインテーマである子供たちの恋の描写にも、大きな違いをもたらす結果になっています。