生徒の大半が男子という星華高校で、史上初の女子生徒会長として、文字通り獅子奮迅の活躍を見せている鮎沢美咲には、人には言えないある秘密がありました。ある日、その秘密が、ちょっぴり謎めいているけど学校で一番人気の完璧男・碓氷拓海に見つかってしまいます。絶体絶命のピンチに陥った美咲でしたが、碓氷は意外な反応を見せます…。
藤原ヒロの人気コミックを原作にした、「メイド・ラブコメディ(笑)」作品。2010年4月からTBS他で放送、全26話。監督：桜井弘明。アニメーション制作：J.C.STAFF。

中心となる二人が、共に文武両道で完璧な生徒としての一面を常に見せ続けている、という設定は、なかなか興味深いものがありました。ところが美咲はそれが災いしてか男子からはほとんど敬遠されているのですが、もう一方の碓氷は女子から絶大な人気を誇るだけでなく、男子からも一目置かれる存在になってします。このギャップが物語に微妙な影を与えていて、特に美咲のツンぶりを際立たせるのにすばらしい効果を出しています。
そんな美咲の不器用さを見守る碓氷が、実はどこまでも紳士だというのが、この作品の隠れた見どころでしょう。「フェロモン星からやって来たヘンタイ宇宙人」(そういえば後半のEDアニメの冒頭で、本当にフェロモン星が描かれたのには笑いました)と、当の美咲からは散々な言われ方をされていますが、その行動にはたいていきちんと何らかの視点が裏打ちされています。それをTVアニメという媒体できちんと表現できた所がいいですね。
最初はその視点に気づくことなく、ただ碓氷の行動に慌てるばかりの美咲でしたが、やがてなぜ彼がそうするのかを、少しずつ理解するようになります。でも、その奥に控えている彼の感情を理解することは、まだ美咲には難しい。そして、そんな彼をどう見つめているのか、ということを美咲自身が気づくのはさらに難しい…。美咲がその難しさにようやく気づく…それまでは自分にそういう課題があることすら気づかなかったのです…17話前後から、この作品は一段と面白みを増していきます。
こういうことは周囲の方が見通しがいいので、ブラックほのか様を筆頭にさまざまな人が美咲にアドバイス(というより半ば詰問)してみたり、碓氷を慰めたり(?)しています。彼女らからの押しにまともに向き合うことすら難しい美咲に対して、碓氷は自分の立ち位置をちゃんと理解して、紳士として相手に対します。彼のこの振る舞いが、いやぁ、実に紳士で、ちょっぴりだぁ×3の彷徨を彷彿させるものがあるのです(もっとも、碓氷の方が遥かに大人びた態度なのですが)。
他校の学園祭という思いがけないシチュエーションの中で、ようやく美咲は自分の中の碓氷への感情と正面から向き合います(26話)。ところが、彼女はまだ上手く自分の思いを受け止めることができず、碓氷の前で混乱してしまいます。ここであの碓氷が、彼女のほとばしる感情を前に慌ててしまう場面が、個人的には一番のお気に入りです。彼にしてみれば、直前の「ごめん、いじめすぎた」という一言で、上手く収まるはずと思っていたのが、思わぬ誤算(おそらく作品中で彼が計算を誤ったのは、これが唯一です)になってしまい、どう振る舞えばいいのかわからなかったのでしょう。あれほど完璧に見える碓氷にとっても、恋は難しいのです。
でも、そのおかげで、花火をバックに二人はキスを交わすことができたのですから、まずはよかったじゃないですか。最後の最後まで「碓氷のアホ」と言われ続けながらも、ようやく「生殺し状態(@くぅが)」から一歩抜け出した碓氷君の今後の健闘を祈らずに入られません。

個人的に密かに楽しみだったのは、碓氷が美咲の意外な行動を目にして、文字通り「きょとん」となる表情でした。それも崩し顔ではなく、まじめな表情でやってくれるカットは、どれも文句なく「かわいい」…いや、おっさんの私が言う言葉ではないとは分かっていますが、あの碓氷にこんな表情をさせる美咲は、確かに「ずるい」なぁとつい思ってしまいます。
また、多彩なサブキャラクターの活躍も楽しみでした。とりわけ私が注目していたのが、美咲のバイト先の店長であるさつきさん。なんでも「永遠の18歳教」だそうですが、働くということの意味をちゃんと理解しており、要所では分別ある大人としての行動をきちんと見せて、作品の脇を固める重要な役どころを上手くこなしていました。彼女の声優さんは「けいおん!」の唯役で大ブレイクした方ですが、この方が（多少言動が崩れる時があるとはいえ)極めてまっとうな成人女性の役を演じたのは、ひょっとするとこの作品がはじめてかもしれません。
最後に、全編を通じてコメディー要素を忘れなかった演出サイドの努力には、拍手を惜しみません。毎回の短いエピローグを、いつも楽しみにしていました。特に3話の「ホワイトミサちゃん」は絶品! 私は「フンッ！」という彼女の気合いに完璧にやられてしまったといって過言ではありません(笑)。さらにここでオチを拾ってくれる3バカの皆さんと来たら…いや、君たちはすばらしい。
それにしても、字幕放送でしっかり「3バカ」とかかれてしまうキャラクターって、なんだか尊敬してしまいます。いや、実にすばらしい。

(2010.9)