スペインのある町。銀行の支店長だったエミリオは、ある日老人介護施設に預けられます。同室のミゲルや気のいいアントニア夫人らと過ごす毎日には、どこか物足りないものを感じていました。ところがある日、服用薬を間違えて渡されたことから、エミリオは自分の将来を悟ってしまいます…
「老い」と「終の住処」、そしてさらに重いテーマに正面から切り込んだ、劇場版長編アニメ作品。原作は同じくスペインのパコ・ロカが描いたコミック「Arrugas」＝第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞。高畑勳の大ファンだというイグナシオ・フェレーラス監督の初長編作品。製作：Perro Verde Films - Cromosoma, S.A.

ちょっと頼りないけど誠実な主人公、一見人が良さそうだけど狡猾な面もかいま見せるその相棒、そしてその二人につかず離れずで寄り添うヒロイン…こう書くと、どこぞの日本のテレビアニメの典型的シチュエーションだと言っても、あながち間違いではありません。この長編アニメの構造は、まさしくこれと同じです。でも、日本のテレビアニメとはたった一つ違う点があります。

それは、主な登場人物の誰もが自分の「老い」を意識していること。

この作品は、「老人が主人公」「スタジオジブリが配給した」ぐらいの前情報だけを頼りに鑑賞することにしました。映画館に入り、幕が上がり、やがてエンドロールが終わり、席からすぐに立ち上がれない自分に驚きました。
内容の重さに打ちのめされた…確かにそうかもしれない。でも、この作品は見る人を打ちのめすことを目的にしていません。むしろ全編を通じて通奏低音のように流れる、人生の最後の時間へのほのかに温かい視点の方が、私には印象的でした。それ以上に、この作品はあくまでもエンタテインメントだということがすばらしい。そして、見る人に「伝えたい」という姿勢が、アニメーションという技法を通じて存分に発揮されていたことが、さらにすばらしい。
だけど、私がもっとすばらしく、そしてもっと悲しく感じたのは、「アニメーションって、こんなこともできるんだ」という率直な思いでした。いや、日本のアニメはここから始まっていたはずなのですが、今の日本でこれと同じアニメ作品を作り出せる人がもはやいないという事実を、私は受け入れざるを得ませんでした。