カチュアの旅路と子供たち(その2)

ここで彼女の前に登場するのがロディです。彼は、初めて出会った大人の女性＝ケイトに、いつしか淡い恋心を抱くようになりました。しかし、ケイトは自分の目の前で、衝撃的な言葉だけを残して壮絶に散ってしまいます。ロディが受けた心の傷は、カチュアと同じく深いものでした。
ロディはその傷を癒せないまま、カチュアに暴言を吐いてしまい(17話)、カチュアとともに自らをもさらに傷つけてしまいます。ロディの中には、意識することはなくとも、その後も永らくこのときの思いが残っていたに違いありません。
ところが、ロディはそのカチュアに、17・28・31話と３度も助けられることになります。それは偶然の悪戯に過ぎないのですが、ロディにはけっしてそのようには思えませんでした。「カチュアには３度も助けられたのに、僕はカチュアに何もしてあげることができない」とまで思っていたかどうかはともかく、これらの経験を通じて、ロディがカチュアに対して何らかの責任感を持つようになったのは、間違いないでしょう(37話でカチュアが収容所に潜入すると言いだしたときの年長組3人の反応は、とても興味深いものがあります)。
ただ、ロディは自分の感情に素直すぎる人物なので、そこでもう一歩深く考えることができません(それが彼の魅力でもあるのですが)。彼もまだ14歳です。彼は特別な体験を共有した者同士の親近感が、自分にとって微妙に変化していること(それは自然なことですが)に気づきません。そんな調子なので、40話でスコットからカチュアの今後について相談を受けたとき、本来ならば真っ先に意見を言ってしかるべきロディは、感情的な答えしか返すことができません。ロディはカチュアへの思いばかりが先行してしまい、なすべきことを見つける事ができないままに、時が過ぎてゆきます。


そのさなか、ミューラァがロディとカチュアの世界に登場します。39話まで、ロディにとってミューラァは「敵の手強いパイロット」という相手にしか過ぎませんでした。しかし、ロディがミューラァの人物像に関心を寄せた時から、話は意外な進展を見せます。
サライダによって明らかにされたミューラァの驚くべき過去は、ロディにとってもう一人の相手…カチュアを思い起こさせずにはいられませんでした。カチュアにはミューラァと同じ苦しみを味わってほしくないと願うロディは、カチュア(そして他の子供たち)は絶対に両親に会わなければいけないんだ、と強く感じます(40話)。
しかし、そのためにはどうすればいいのか、ロディ自身もよくわからないままに再び時は過ぎ、そして唐突に41話のエピソードが登場します。ロディの目前で、カチュアが、事もあろうにミューラァに連れ去られようとしています。
ロディなら、助ける対象がカチュアでなくてもきっと率先して助けに向かったはずです(もっとも、例えばスコットが対象だったら、彼の取った手段は当然違うものになったでしょう)。でも、そこにはやはり「カチュアが」という思いがあったことは否定できないでしょう。そして、それと同じぐらいの重みで「ミューラァが」という思いがあったのです。
結果として、彼はケイトの死以来初めてカチュアを救うことができました。しかし、彼は今やそんなことはほとんど気にしていません。むしろ、この熾烈な体験の中で、「カチュアは僕たちといっしょにいるべきなんだ」という思いが、ロディの中で大きな位置を占めるようになります。ロディはそれがカチュアにとって幸せなんだと信じ、カチュアの説得に努めます。また、ロディ達の提案に明るく振舞うカチュアの姿に、ロディはさらにその意を強くします。しかし、それがカチュアに新たな重荷を背負わせていることまでは、彼は気づく由もありませんでした。ロディとの会話を重ねる度に、カチュアの表情は沈んでいき、ロディはますます自分の思い込みを強くしていったのです。

一方、スコットはキャプテンとしての立場から、カチュアの将来を気遣います。彼はカチュアの細かな心理までは気づかないのですが、カチュアの今後について彼なりに考えていました。
だから彼はメルの父親からククト星の状況を聞いて、すぐにカチュアのことに思いをはせます。そして、他の子供たちとカチュアのことを相談するようになります(そのときのロディの反応の鈍さは先述のとおりです)。もちろん、彼はカチュアにも幾度か話し掛けますが、いかにも彼らしく、彼女の言葉の裏にあるものを汲み取ることはできません。
それでも彼は、カチュアの進むべき道を模索していきます。それは、不器用な彼なりにカチュアに注いだ優しさの証(あかし)でもありました。
もちろん、カチュアがそんなスコットの心遣いに気づかないはずはありません。たとえそれがキャプテンという立場から出たものであっても、スコットの優しさは彼女にとってどれほど心強いものであったことか。彼女はロディにすらめったに見せない本物の笑顔でそれに応じます。
でも、それでも、カチュアの苦悩は晴れません。