ロディの心模様と主人公像(その2)


＜ケイトの面影＞
ロディという少年を語るときに避けて通れないのが、彼の周囲を彩った女性の姿でしょう。ロディが好むと好まざるとにかかわらず、彼の周囲には魅力的な女性が常に存在し、彼は時にはその色香に惑わされ(ウソ!?)、時には手を携えようとしながら、一人の男として成長を遂げていきます。このエピソード群は「バイファム」全編を通じてもっとも重要なテーマの一つとして取り上げられており、13人の中でロディが主人公として扱われているという重要な根拠となっています。
※当サイトの他のページもご訪問いただいた方の中には、「バイファム」の中にもっとも重要なテーマがいったい幾つあったのか、と私に突っ込みを入れたくなる方もいるかもしれません。ごもっとも。全くもってその通りです。でも、どうか許して欲しい。この作品で扱われた主題の大半は、他の多くのアニメより遥かに高いレベルで見事な成果をあげており、それらはいずれも私にとっては大切なのです。とどのつまり、私がこの作品の「ファン」であることを一所懸命話そうとするとこうなるのです。

この作品に登場する子供の数が13人、つまり奇数であるため、物語中で何らかのペアをセットしようとすると、どうしても1人余ってしまいます。作品中では男子のほうが1人多いのですが、製作スタッフが最初からどこまで計算していたかはともかく、ロディが必ずしも「あぶれる」側に回るとは決まっていなかったことは事実でしょう。
念のため、物語初期での男女ペアを確認しておくと
(1)スコットとクレア…おさななじみ＋α
(2)フレッドとペンチ…フレッドの片思い
(3)マルロとルチーナ…家が隣同士
(4)カチュアとジミー…ベルウィック星ステーションの生き残り
の4組になりますが、この中で明確に恋愛感情が働いていると言えるのは(2)だけでしょう(ただしこの時点ではフレッドからの片思いですが)。今後恋愛を軸とした男女関係が成立するかどうか、少なくとも物語で描かれる範囲では全く未知数でした。
この頃のロディは同世代であるクレアやマキと比較的親しくしている場面が多いようです。でも、それはあくまでも同じ運命のもとにいる同世代の子供同士のつきあいであり、格段の感情があるわけではありません。
ところで、ロディの周囲にはもう一人の女性がいました。その女性＝ケイトの「発見」が、ロディの人生を大きく変えることになります。

ロディとケイトは1話から顔を合わせていますが、その時点では単なる通りすがりの相手の域をほとんど脱していません。大人達がほとんど姿を消す3話になって、ロディはケイトをおそらく初めて個人として認識するようになります。しかし、それは自分を守ってくれる保護者としての理解であり、子供と親との関係に限りなく近いものとして感じられていました。その感覚はケイトの側からも同じであり、それは6話冒頭まで続きます。
6話冒頭でクレーク遭難の知らせに呆然とするケイトを見たロディとバーツは、子供らしい楽観と行動力を見せ、ケイトを勇気づけます。3人はクレークの捜索に出発しますが、この時点でもロディから見たケイトは「大人」でしかなく、ケイトから見たロディも「子供」以上の存在ではありません。しかし、二人の平和な関係はこのときまででした。
その関係が変化を見せる一瞬を、ここまで視聴者にとってリアルに感じられるエピソードで綴った作品は、おそらく「バイファム」が最初ではないでしょうか。少なくとも私にとっては、宇宙を舞う紙飛行機(46話)やカチュアに握手を求めるケンツ(17話)と同じぐらいの名場面です。つまり、全ての始まりとなった「いけないアングル」こそ、ロディの性格描写を決定づけるもののように思えます。

番組放映当時の私は、ジープの上で見せるロディの仕草の意味が全く理解できていませんでした。でも、私でも多少は成長したのでしょう、翌年の再放送時にはロディの心の動きが手に取るように分かりました。そして、「バイファム」の真の魅力に私が触れたと感じたのは、まさにこの瞬間だったのです。
ロディはケイトを上から見るという経験を通じて、彼女を初めて「女性」として見ることができることに気づきます。そして、ロディにとってそれはおそらくこれまで経験したことがない感覚だったのではないでしょうか。戦場真っ只中でのこんな経験が少年ロディにとってどれほど強烈なものだったか、想像に難くありません。
なんとかその場を取り繕ったロディは、夕食の席上3人でケイトとクレークの関係を話します。それはケイトとバーツには他愛ない内容だったのですが、ロディにとっては必ずしもそうではありません。その後ロディは、バーツにそそのかされてケイトの水浴びを覗きに向かいます。月明かりに輝くケイトの裸体に、ロディはただ見とれるばかりです。それは彼にしてみれば圧倒的なまでの「女」の姿だったのでしょう。
一方のケイトは、ロディ達のそんな行動も子供ならではのいたずら程度にしか感じていません。さすがにいったんは驚きますが、慌てて逃げ去る2人を見送りながら微笑むあたりに、彼女の二人へのまなざしを感じさせます。それは、翌朝の旅程でロディがやたらと座る位置や視線を気にするのを不思議がる様子にも明らかです。
こうした描写から、ロディにとってのケイトは既に気にせずにはいられない存在だがケイトから見たロディは子供に過ぎない、という二人の関係の構図が私達の前に示されます。そして、それを視聴者(とバーツ)だけが知っているという点が、これ以降の二人の関係の描写をドラマチックなものに仕立てていきます。