スコットの成長と仲間たち(その6)

また繰り返しになりますが、スコットはリーダーとしての役割を必ずしも順調にこなしたわけではありません。生活の舞台をジェイナスに移してからも、彼の苦闘は続きました。ただ、今や子供たちの誰もがスコットをリーダーとして認めていた点が、それまでとは大きく異なります。物語にはそんな状況を巧みに活かしたエピソードが多数登場しますが、ここではその中から代表的なものをいくつか紹介しながら、スコットの奮闘ぶりを振り返ってみましょう。
12話ではみんなから愛されるキャプテンとして、スコットは幸せの絶頂にあったのですが、続く13話では、彼の限界がたちまち露呈してしまいます。スコットの指示を無視して、バーツとロディはRVの命綱を外して射撃訓練を始めます。「そんなことをするなんて聞いていないぞ！」とスコットは息巻くのですが、その原因が自分自身にあることには思いが至りません。そんなスコットにクレアは「でしょうね」と応じるのですが、それはスコットのよき理解者としての彼女の役割が垣間見えます。
ところが、そこに敵が接近し、事態は緊迫します。敵を説得するというケイトの言葉に従い、スコットはロディたちに攻撃をしないように命じますが、緊張に耐えられなくなったバーツがついに発砲し、敵からの反撃でバーツのディルファムは被弾してしまいました。スコットは思わず「馬鹿なことを」と吐き捨てますが、それはまだリーダーとして不慣れであるが故の彼の焦りの表現でした。
この回、スコットは事実上初めて戦闘指揮官としての役割をこなします。意外なほど冷静に彼は指示を出すのですが(ここはちょっと不自然な描写です)、残念ながら戦闘は彼の思うとおりには進行しませんでした。子供たちは一応スコットの指示を聞きますが、それは必ずしも積極的なものではなく、マキの命令外の行動が結果としてジェイナスを救うことになりました。スコットの指揮は、事実上機能しなかったのです。


その後16話になって、スコットは再び戦闘指揮官を務めますが、ここでも彼の指揮は失敗に終わります。カチュアの救出には成功したものの、ケイトを落命させてしまったのです。物語ではロディとカチュアの悲しみが強調されますが、スコットが感じていた責任は、一瞬映る彼の表情を見るだけでも、よく伝わってきます。
また、14-16話にかけて物語はカチュアの存在を巡って大きく動きますが、スコットはその流れの中にほとんど加わりません。もちろんそれはストーリー展開上製作スタッフがそのように設定した影響も大きいのですが、一方でで子供たちのメンタルな部分を導く器量が、当時のスコットには欠けていたことも否定できません。
実際、この事件のさなか、スコットはカチュアの苦悩にはほとんど考慮を払っていません。それは、彼がカチュアがジェイナスから飛び出したことをケイトに報告しにいったときの台詞からも推察できます。もちろん、ロディとケイトの関係など、彼の眼中にありません。
彼は子供たちの行動を管理することで手いっぱいで、リーダーとしてのもう一つの重要な役割に気づく余力はなかったのです。仮にあの時点で彼がその役割に気づき、それを果たそうとしても、残念ながら当時の彼では、これを果たすことはできなかったでしょう。スコットとは、良くも悪くもそういう人物でした。
17話冒頭の航海日誌で、スコットは初めてこのことに触れ、自分の至らなさを言外に滲ませます。でも、彼にできるのはここまで。彼は指揮官としてジェイナスの軌道変更という大事業に追われていて、傷ついた子供たちの心を再びまとめあげることまではとてもできません…彼の心もやはり傷ついていました。ただ、彼にはそれを表現できるだけの余裕すら与えられていなかったのです。
ここでバーツがスコットのもう一つの役割を絶妙にフォローし、さらにカチュアの予想外の行為もあって、子供たちは再び一つになって歩き始めました。果たして、子供たちは物語中最大の危機を乗り切り、ジェイナスは無事に進路変更に成功します。スコットは他の子供たちの多大な協力のもとに、キャプテンとして初めてその任を全うすることができました。

19話でも、スコットの他人の思いに気づくのが苦手という部分が強調されました。クレアの涙ながらの訴えにきょとんとするだけの彼の姿はお見事です。別にスコットに限らず、男性という生き物は一般にああいう部分が多分にあるものですが(え、筆者だけだって？)、この作品の子供たちは、そのあたりを敏感に感じられるものとして描かれているだけに、ここでのスコットの所作は印象的です。
この回の最後で、ジェイナスの行く手に敵の中継ステーションがあると判明します。この脅威を前にどうすべきなのか、彼は重大な決断を迫られました。この重圧に耐えきれず、スコットはとうとう体調を崩してしまいます(20話)。彼にしてみれば、ジェイナス発進以降気の休まるときなど一時もなかったでしょうから、この状況は、ある意味やむをえないものでした。
もし物語の舞台が地上であったなら、スコットがキャプテンに復帰するまで作戦の実行を見合わせるという選択肢もあったでしょう。しかし、航行中の宇宙船という状況ではそんな芸当はできません。子供たちはキャプテン代理をたてて作戦を遂行することを強いられます。