今回のお話は、あらすじだけを書き出すととてもシンプルで、まさに少女マンガストーリーの典型的な筋書きと言えそうです。でも、そのあらすじを描くためにこの作品は持てる要素を全て使い切ってきます。常に全力投球といった感がするのですが、それでも味付けがもたれないのは、この作品が名作であることの地味だけど大切な証なのです。
特にあずきの家族の描写が今回の圧巻でしょう。友達の家に出かける母の憤懣やるかたない表情もいいのですが、翌朝の朝食での父親の言動がすばらしい。結局、夫は常に妻のご機嫌を伺わざるを得ないのですね(笑)。犬も食わない夫婦喧嘩を無邪気に楽しんでいるだいずも面白い。父の言葉に何も答えない母に対して、父の言葉を繰り返すあたり、なんともおかしいですね。「いちいち通訳しなくてもいいの!!」と怒鳴るあずきの気持ち、よく分かります。
こうした描写が上手く物語にはまるのは、冒頭の公園のエピソードの描写があってのものでしょう。静かにボートに乗る両親の姿ももちろんいいのですが、勇之助達にもう1隻借りたら、と勧める父を見守る母の表情が、なんともすてきなのです。こうした二人の姿がごく自然に子供たちの物語になじんでいるのがとても気持ちよく、この作品のアニメ版ならではの魅力を満喫できる部分でしょう。
さて、あずき自身はこの公園のボートを巡るジンクスは全く知らなかったようです。ヨーコにその話を聞かされてからのあずきの行動は、ちょっと神経質になりすぎというのが周りの視点でしょう。でも、あずき本人にとってはそうも言ってられない。両親は大喧嘩するし、ヨーコちゃんは私の席を取ってしまうし…。それでも「…今は勇之助くんを信じるしかないものね」とジダマたちに言えるほど、あずきは成長したのです。あずき自身も認めるとおり、確かに背伸びした言葉なのですが、以前の彼女ならこんな背伸びをすることすらできなかったことでしょう。それを可能にしてくれた友達、そして勇之助の存在を、あずきはしっかりと感じていたに違いありません。
そんなあずきの揺れる心理を微妙に付くヨーコちゃんの巧みな作戦には、唖然とするばかりです。恋する女の子、恐るべし。だけど、それを覆したのが(ジダマではなく)トモちゃんというキャスティングが心憎いですね。あずき達とはちょっと離れた場所にいるからこそ、よりあずきのことを大切に思ってくれている、そんなトモちゃんの姿が印象的でした。
ところで、勇之助ももちろんジンクスのことなんて知りません。でも、それを知ってからの彼の言動は、いつも以上に爽やかさを感じさせてくれます。その他にも、ちゃんと二人の仲を見守っているケンや、ひたすらぐうたらなまこと、そして見事な泥酔ぶりのあずきの父親と、今回は男性陣の細かい演技が冴えており、これが物語の印象を支えていたと思います。 |
