どこかの町を歩いてみよう(その2)

さて、おいしい料理で疲れも取れたので、今度は山の方へ向かってみましょう。 繁華街から海とは逆の方へ向かうと、まず公共施設が並ぶ地区に出ます。サッカー場や野球場、それにテニスコートなどが並ぶ大きな公園があります。その向こうにはモモのパパがよく行っていた動物園が広がっています。公園を挟んで動物園の反対側にあるのは、おそらくサーキットと競馬場でしょうが、ここからは遠いのでよく分かりません。さらに奥にはルーカスパークの観覧車がわずかに顔を出しています。また、このあたりは時々旅回りのサーカステントが立つこともあります。 この大きな公園を抜けると、この町の高級住宅街に出ます。ルピンの家は確かこのあたりにあったはずです。このあたりから標高が少しずつ高くなっていきますが、あちこちにある高台には、お昼前に見上げた公園があります。 いよいよ市街地のはずれに来ました。向こうにはなだらかな丘が続いているのが分かります。市街地と丘の接点にあるこじんまりした公園が、かつてミイチャンと呼ばれたおばあさんが作った野鳥の王国です。いまでは身近なバードウォッチングの場所として有名です。木々が繁る隙間に見える古びた洋館が、あの感動の名作の舞台となった幽霊屋敷です。 ここからそう遠くない高台にバラのきれいな教会があり、花の季節には大勢の観光客が訪れます。そこに隣接したテニスコートには、時折世界的なプレーヤーのジミーが姿を見せます。ここまで来ると空気が本当においしい。このあたりには療養施設も幾つか見られます。 さて、せっかくですから少し丘を登ってみましょう。モモたちが橇遊びをした場所は、ちょうどこのあたりでしょうか。そしてもう少し行くと、きれいなお花畑で有名なロッジが見えてきます。 ここで道を曲がるとスペースショッテルと戦略空軍の基地に通じているのですが、普段は民間人の交通はありません。また、このまま進めばさほど遠くない場所に牧場があります。この道はそのまま霧の山高原に向かうのですが、歩いていくにはちょっと遠すぎます。牧場でおいしいミルクをいただいた後、駅に戻って霧の山鉄道の始発駅に向かうことにしましょう。

…さて、こうして1日かけてどこかの町をぶらりと歩いてみましたが、皆さんどうでしょう、この町の地図を作れそうでしょうか? もちろん、作れっこありませんよね。もし(それがあるとして)この町の地図といった番組の設定資料をお持ちの方がおられたら、「でたらめ書くな!」とお怒りかもしれません。 でも、ちょっと待ってください。こうして「モモ」に登場した場所を(ちょっとだけ考えて)適当に並べるだけで、何となくどこかの町が心の中に描けるような気がしませんか? 確かにサッカー場とクレープのおいしい公園との位置関係なんて全然分からない。だけど、一つの町としてみたとき、この町の姿がとりとめも無く浮かんでくるような気がしないでしょうか。 このコーナーを手がけはじめた頃は、放送された映像を片っ端からつなげて、どこかの町の全体地図でも作ろうかと思っていました。でも、作業を進めていくうちにふと気づいたのです。どこかの町は「モモ」を見ている私やあなただけが体験できる町なのです。その町はもちろん私やあなただけの町なのですが、同時にこの作品を見る全ての人に共通する町でもあります。そんな町の地図を作る意味がどこにあるんだろうか? この一読すると矛盾だらけの説明、たしかに何の意味もないのかもしれません。でも、あなたも試しに私と同じようにこの町を散歩してみませんか? おそらく、あなたもきっと私と同じこの感覚を味わうことができると思います。 もうお分かりでしょう。どこかの町には地図なんかありません。というよりいらないのです。地図はそこを訪れた私達そのものなのです。じゃあ、どうやって歩けばいいの? ここで大切になるのが、先にカッコ付きで登場した「ちょっとだけ考えて」という作業です。それを方位磁石代わりにして私達はこの町を歩き、モモやその他の住人と出会うことになります。