| ともあれ、文化祭ですばらしい演奏を聴かせてくれたこのバンドですが、次の機会がなかなか登場しない(笑)。あっという間に新年度入りしてしまいます。新学期と言えば、新入部員をゲットするのがクラブ活動の最大のミッションというのは、いつの世でも変わらないもの。当然、我らが桜高軽音部も懸命に勧誘活動を繰り広げて…いたようです、一応(第8話)。 唯の妹の憂とその友人が軽音部を見学に来たので、唯達は演奏を披露するのですが、むしろその演奏に至るまでを丹念に追うのが、この作品の描き方です。ごちゃごちゃとエピソートが続いた後、ようやく聞こえてくる唯達のセッションを、私達は梓と同じ、音楽室の外から聞くことになります。 この作品における練習といえば、「ふわふわ時間」がデファクトスタンダードになっていて、それはこの場面でも共通なのですが、ここでは「前ノリ・後ノリ・リズムセクションがバラバラ」が復活します。それも、ひょっとすると5話のセッションよりもズッコケぶりがパワーアップしているのではないでしょうか。画面からは憂ちゃんがノリようがなくて困っている様子がありありと見えるのですが、それ以上に梓がこの演奏に何を感じたのか、思いを巡らすと、なかなか楽しめます。 |
| そしていよいよ久々の本格的音楽シーン＝新歓のライブステージがやってきます。 梓をちょっぴり強引に誘って憂が会場に入ると、ちょうど2曲目が終わるところでした。澪の作った進行表を信じるなら、この曲が「カレーのちライス(*)」に相当するのですが、これがとんでもなくハードなエンディングなので、ちょっとびっくりしてしまいます。曲が終わってペットボトルの水を飲み干す唯の姿が、意外なほどサマになっているのがいいですね。 *)彼女達のミニアルバムが発売されたようですが、それによると、やはりこの曲で正しいようです。 ここで唯がMCを始めるのですが、内容を聞くと、2曲目が終わったところで初めてのMCを入れたらしいことが分かります。推測の域を出ませんが、2曲を通しで演奏できるようになったと示すことで、このバンドとしての腕前が上がったことがさりげなく表現されています。 たのしい唯のMCに続いて、「私の恋はホッチキス」が始まります。やっと彼女達の演奏が聴ける、と安堵したファンも多いのではないでしょうか。 そして、唯がイントロの旋律(一応リフなんだそうです)を奏でた瞬間、ビックリした人も、また多いと思います。超絶技巧ではありませんが、クリアで伸びやかな音色を響かせる唯のギターの上達ぶりには、澪ならずとも驚いてしまいます。当の唯自身も自分の音色に酔いしれていて、澪に指摘されてようやくボーカルの出番を思い出すのですが、あ、歌詞忘れた…!! 固まる唯を横に、あれほどボーカルに拒否反応を示していた澪が ♪なんでなんだろう…と歌い始めます。あわててマイクカバーした(とは見えない作画は別にして)ので、歌詞の冒頭がきちんと拾われていない、という音響演出が憎いですね。 ここで、バックで演奏する二人の視線が実にいい。ちょっぴり不安げに、だけど頑張ってと声援を送る紬の後ろ姿。そして、バンドを俯瞰するため前を見据えつつ、リズムキープに徹する律。バンドの音楽面は多分に澪(とそれを支える紬)に頼りつつも、バンドリーダーはやっぱり律なのです。わずか数秒・2カットの描写ですが、この場面はこのバンドが育んできたものを、いかにも舞台上で起こりうる形でしっかり描いており、作品にとって重要な意味を持っています。 |
| 呆然と舞台上に立ち尽くしていた唯ですが(実際の演奏ではこの間もギターが鳴っており、画面でのお芝居とは異なります)、澪から「早く歌え!」とアイコンタクトをもらってようやく落ち着き(そう、文化祭とは逆の役回りですね)、曲はツインボーカルの演奏に移行します。 ここからの演奏は実にすばらしい。声質がまるで違う唯と澪なのですが、編曲の上手さもあって、きれいにミックスされたボーカルサウンドになっています。とりわけ、一瞬のうちにメロディーラインからコーラスにポジションを移した澪の歌唱力はたいしたもので、さっきまでの「ヤダッ!!」は一体なんだったんだ、と突っ込みたくなります。 また、曲の構造自体も「ふわふわ時間」に比べてはるかに高度で複雑なものになっています。細々した話は抜きにしますが、パワーだけではない、ちゃんとしたテクニックと表現力が必要な曲になっています。きっと紬が「今の私達ならここまでできる」と意気込んで作曲したのでしょうが、メンバーは見事にそれに応えています。ともすればかわいい女の子のツインボーカルという面だけに目が向いてしまう(これはこれで大切な)のですが、実はちゃんとバンドとして音楽的に成長している姿を、この演奏ははっきりと示してくれています。 たぶん、それはバンドメンバー自身がはっきりと自覚したはずです。ツインボーカルになってから、もう一度紬がフロントを見るカットが入りますが、もう大丈夫というよりも、ハプニングも含めて演奏するって楽しい、という満足げな表情になっています。そして何よりも、のびのびと歌う唯と律の姿が、とても印象的です。おそらく文化祭の時にはそんな余裕すらなかった(ということをちゃんと描いて欲しかった…と、ここでも愚痴ってしまいますが)客席の反応を感じ取ることで、彼女達はきっと充実した気持ちで演奏を続けたはずです。まぁ、唯の失敗がそれで帳消しになるわけでもないのですが…。 |
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