| ここでようやく唯が登場して、案の定またまた大トラブルを起こします。さすがに今度ばかりは救いようがないのですが、それでもメンバーは唯のためにできるかぎりのことをしてあげます…要するに、自分達の出演時間を削ってまで、開演をぎりぎりまで遅らせたのです。直接には何も描かれませんが、舞台袖で心配そうに進行を見守る(次の出番の)演劇部と、進行表を手に祈るような表情の和を見るだけで、何が起こっているのか、だいたい察しがつきます。 まさに迷惑かけ通しの唯一人のために、なんでメンバーはここまでしてあげるのでしょう? それはクライマックスの律の台詞「みんな唯が大好きだよ」に集約されるのですが、そこには、「あんなに楽しそうに演奏してくれる」という枕詞が隠されています。おそらく、律や他のメンバーもみんな、全身から嬉しさを爆発させて演奏する唯の姿が大好きで、このバンドをやっているに違いないのです。 |
| ついに時間が来て、とうとう放課後ティータイムのステージが始まります。幕が上がると、予想外のメンバーに会場はざわめきます。リーダーの律は、さまざまな思いをぐっとこらえて、冷静にカウントを入れます(この直前スティックを空打ちする部分の作画が消えているのは、この作品には珍しいミスです)。曲はいきなりイントロの旋律で始まるのですが、最初の1小節を聴いた瞬間、私はいい知れぬ衝撃を受けました。まさか、この作品でこんな伏線が張られているなんて、まったく予期していなかったのです。 臨時のリードギターを担当する梓が演奏するメロディーとは、夏合宿の夜に唯と二人で練習した、あのメロディーでした。文化祭のための練習をちゃんと夏合宿から始めていたことが、ここで明らかになります。それが梓にとってどれだけ大切な思い出になったのか、言うまでもありません…合宿が終わった後の唯に対する梓の評価は、「ちゃんと練習してた!」なのです(10話)。だから梓は、唯抜きでの演奏をあれほどまでに拒絶したのです。 おそらく二人が初めて真剣にお互いの音楽と向かい合ったあの時間を、梓はこのメロディーを弾きながら、どんな気持ちで思い出していたのでしょう。唯先輩が「あずにゃん、上手!」と褒めてくれた旋律を、梓はさらりと演奏していきます。本当は唯先輩の楽しい音が響くはずなのに…。画面上の梓はただ演奏に向き合うストイックな描写に終始していますが、実際には「唯先輩!!」と叫びたくて仕方なかったはずです。 梓だけでなく、他のメンバーの心も唯を追いかけていることも描かれていきます。とりわけ、紬は心ここにあらずという感じで、こちらが心配になってしまいます。そしてここでも、前を見据えてリズムキープに徹する、バンドリーダー律の姿が印象的です。もうすっかりボーカルとしてふるまう澪(考えてみると、5人バンドでボーカルがベースというのはかなりすごい)がまたまた不思議な歌詞を歌い出し、私達はこの新曲が「ふでペン ボールペン」だと知ることになります。 |
| この曲の演奏は、唯の独白がほぼ全編にかぶるため、あまり描写されません。ただ、客演のさわ子先生も入れて5人になったバンドのサウンドはさすがに豪華です。紬の作曲の腕前には恐れ入りますが、たぶんほとんど初見で見事な演奏を披露したさわ子先生を、ここでは褒めるべきでしょう。 また、この曲のメロディーにはシンコペーションが多用されていて、ちょっと気を緩めるとどんどんリズム感が乱れてしまいます。冒頭で律がリズムキープに徹していたのは、自分の弱点を(唯がいない)こんなところで出すわけにはいかない、それにこんな曲にした紬(きっと「もうりっちゃんなら大丈夫でしょう」とかなんとか、楽譜を配る時に言ったはずです)にちゃんと応えてあげなきゃ、という意地のようなものもある程度はあったはずです。 でも、ライブのオープニングとしては、もう少しパンチの効いた曲の方がいいかもしれない…というのは、メンバーは百も承知でしょう。彼女達は、唯がステージに戻って来ることを信じていたので、自分達の持ち時間を削った上に、曲順も変更したのです。 |
| メンバー達の願いと、唯の懸命のがんばりが実って、唯は「ふでペン ボールペン」が終わる直前にステージ前にたどり着きます。唯の姿に気がつくメンバー。まるで母のような微笑みを見せる紬が美しい! ここで、普段は冷静な演奏を見せる澪が、唯が戻ってきた喜びのあまりエンディングで音をダンプするのを忘れてしまい、ベースの音だけが延々と響いているという、細かい演出が見られます。 舞台下で息を切らせる唯を舞台上の澪が見つめるというカットは、はるか以前(第4話)、打ち上げ花火のステージをバックにギターをかき鳴らす唯を見つめる澪のカットと、シンメトリーな関係にあります。あの時、音楽を楽しむということを唯に思い出させてもらった澪が、今は私もみんなと音楽を楽しみたいとがむしゃらに走ってきた唯を見て、何を感じたのでしょう。 唯は舞台に上がって、まずさわ子先生にお礼を言った後(ここはエライ!)、自分のふがいなさをメンバーに詫びるうちに、気持ちが高ぶってしまいます。そんな唯に「タイぐらいちゃんと結べ」と手を差し伸べる澪が、とてもいいのです。 |
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