| 果たして、最後の瞬間にまどかがキュゥべえを引き連れて登場し、事態は大きく動く事になります。この時点で、まどかがどこまで自分が選ぶ運命の事を理解していたのか、作品は明確には示していません。たぶん、続く12話でキュゥべえに「本当に神になるつもりかい!?」と問われるまで、まどかは本当の事を理解してはいなかったのかもしれません。でも、11話Bパート冒頭からここまでの間に、まどか自身が大きな決心を固めた事は間違いありません。 その理由の一つは、既に触れた通り、ほむらの業と彼女の本当の思いを知ってしまった事ですが、さらに避難施設の廊下でキュゥべえと話をした事で、彼女の思いは次第に具体化されていきます。ほむらの希望とはまどかそのものである事、その希望を持つ限り、ほむらには救済の時が訪れないという事(これには少々異議があります。希望が実現すれば、ほむらは無限のループから抜け出せるのです。ただ、これまではそれが実現できていないだけなのです)、そして、それは過去幾多も存在した魔法少女の運命と同じであるという事。この最後の事実が、まどかのほむらへの思いを、より高い次元に引き上げる役目を果たします。でも、これだけではまだ、あの崇高な願いには届きません。 それでもまどかは、自分には果たすべき役割があると、この作品中はじめて自らの意志で運命に立ち向かい始めます。こうして避難所を一人出ようとするまどかを引き止めたのは、彼女の母詢子(じゅんこ)でした。もちろん、詢子にはまどかとその友達(ほむら)が背負っている運命など知る由もありません。でも、彼女は、大人として、そしてまどかの母親として、まどかの気持ち、あるいは決意を確かめようとします。この短いシークエンスで、まどかは自分の思いを反芻し、そして詢子に言葉を返す事で、その思いを確かなものにしていきます。 「ママはさ、私がいい子に育ったって言ってくれたよね。嘘もつかない、悪い事もしないって。今でもそう信じてくれる? 私を正しいと思ってくれる?」 この言葉の真の重さにこの時点のまどかが気づいていたとは、私には思えません。でも、詢子にはその奥に潜む意味がおおむね伝わったのでしょう。ひょっとしてこれが自分の愛する(いい子に育ってくれた)娘と話す最後の時間かもしれない、と感じつつも、詢子はまどかの背中を押します。こうしてまどかは、自分の思いを詢子に認めてもらう事で、キュゥべえに何を望むかを確定させるのです。「ありがとう、ママ」と言うまどかには、すでに相応の覚悟がある事が読み取れます。ほんの短い時間の間に、まどかの思いは、一気に神の領域にまで高まりました。それを生み出したのが、他ならぬ母の存在という演出には、実に興味深いものがあります。 |
| こうしてみると、まどかが作中においてヒロインとなる要件は、自分自身ではなく、主に周囲の環境によってもたらされたものだと言えるでしょう。ほむらの不思議な能力と過酷な運命、キュゥべえの残酷かつ無邪気な助言、そして詢子による指摘と受容、こうした事象が重なる事でまどかには、彼女自身が何ら気づかないまま、ただ魔(法少)女としての計り知れない力と、神となるための思いとが蓄積されていったのです。 これは、イデオンやエヴァとは大きく異なる、「まどかマギカ」ならではの展開として、私はとても注目しています。主人公自身がここまで受動態で成長した作品はこの作品がはじめてではないかもしれませんが、その結果として神の座を戴こうとするわけですから、これは少々異常と言って差し支えないでしょう。本当にこれでいいのか? と問われると、私は少し首を傾げてしまいます。うーん。 一方で、これは実に自然なのかもしれません。それまでのまどかは自分では何一つ取り柄がないと思い込んでいる、ごく普通のか弱い女子中学生です。人の心の痛みには敏感ですが、それを自分にはどうする事もできない。ただ寄り添ってあげるだけしかできない自分自身の弱さに、彼女は劣等感すら感じていました。でも、それこそがいちばん大切なのかもしれない。自分が弱いと分かっているからこそ、自分を守ってくれていた人の弱さも、自分の事として感じる事ができる。その人を助けたいと心から願う時、自分にある力を正しく使う事ができる…自分が弱い存在だからこそ、どう力を使えば弱い人を助ける事ができるかが分かるから。それがこの物語では(外部要因で)たまたまとんでもなく大きく、万能なものになっていただけなのです。要するに、まどかは自ら望んでその力を得たのではなく、必要となったとき、その力があまりにも強くなっていたので、最初は単に友達を助けたいという自らの祈りを、より大きくできたという事でしょう。 そのまどかに自分では望まない形で力を強め続けていたほむらが、自分の無限ループを断ち切るきっかけになったのは、自分の強さへの限界を感じたからでした。かりそめとはいえ仲間に先立たれ、キュゥべえに真実を告げられ、悄然と一人部屋にいるほむらをまどかが訪ねます。そこで初めてまどかに出会った時のか弱い自分の姿に戻ってまどかを抱きしめたとき、ほむらの運命の時計は初めて別の未来へと向けて時を刻み始めたのです。 …この二人に共通する何かが、この作品の重要なメッセージにつながるのではないか。私にはそう思えます。 |
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