| 【40話】さくら・知世・小狼・苺鈴の4人は、東京タワーへ遊びに行く。ところが、「夢(ドリーム)」のカードを知らずに踏んでしまったさくらは、不思議な夢を見てしまう… 「クロウカード編」のクライマックスに向かう中での重要なエピソードなので、印象に残っている方も多いと思います。挿入歌とタイアップしたシークエンスなども楽しいのですが、それ以上に私がこの回に強く惹かれるのは、その画面レイアウトによる演出です。 「さくら」の他の回でも見られるとおり、この作品では「不条理な作品世界」を描くとき、画面の地平線は斜めに描かれます。つまり、さくらたちは画面上に傾いて登場します。そうすることで視覚的に得られる強い不安感と緊張感が、「この場面は普通じゃないんだよ」ということを私達に伝えてくれます。この演出自体は、他の作品でもよく見られるものであり、別に特別なものではありません。ただし、この回におけるその用いられ方の巧みさは、特筆すべきものがあると思います。 この回では「夢」が見せる幻覚が不条理な世界として描かれていることはすぐに分かるのですが、ここにちょっとした仕掛けがあります。 |
| 映画館で席を立った小狼が出口の扉を開けると、そこにもう一つのスクリーンがあって…という場面があります。これはもちろん「夢」が見せる幻覚なのですが、この部分での地平線は(斜めではなく)ちゃんと水平に描かれています。小狼は画面上にまっすぐ立って、スクリーン上に映し出される画面を見つめる羽目になります。あれ？ また、東京タワーの展望台を舞台にしてさくらが見る幻覚は、最初は極端なほど傾いています。でもしばらく物語が進行すると、まだ幻覚が続いているはずなのに、いつの間にか地平線は水平に戻っています。どうして？ 皆さんお分かりのとおり、ここで小狼や(まっすぐになってからの)さくらが見ている幻覚は、やがて現実のものとなります。そのことを視聴者に提示するために、これらの場面で地平線の向きは変化していたのです。ケロちゃんはさくらたちにそれを予知夢と説明しますが、それは実は私達視聴者に向けての説明だったのです。 この時点で小狼は自分がさくらに寄せる思いに気づいていないのですが、私達(と知世)は以前からの小狼の言動でそのことはよく理解しています。このちょっとしたトリックこそ「さくらカード」編のキーポイントになるのですが、この場面は遥か69話にまで続く小狼の今後の運命を、これ以上ないファンタジックな表現で私達の前に示しているのです。 それ以上に、今後のさくらの運命をも私達に示唆している点が、この演出の見所でしょう。まもなくさくらに降りかかる受難と苦しみ、そして訪れる希望の時…後の物語の全てが、まっすぐになってからの幻覚に凝縮されて提示されます。そして、悲しみに沈むさくらに希望の光を与えるのが他ならぬさくら自身の「絶対、だいじょうぶだよ」というのが、実にすばらしい。さくら自身の「強さ」こそが最後に彼女を導いてくれるというプロットが、このシークエンスに巧みに織りこまれています。 |
| また、この直後に登場する回想シーンのエピソード選択にも細心の注意が払われている点も、見逃せません。最初の2つのエピソードは物語の説明として不可欠ですが、それ以降連なるエピソードには、一貫したテーマがあります。それは「さくらの大切な人」を描くために作られたエピソードだということです。さらに言葉を継ぐなら、単に彼らを紹介するだけでなく、さくらが彼ら大切な人の事を真に思っている場面ばかりを集めている点にも注目すべきでしょう(ここで先述の22話が登場していることを指摘しておきます)。 さくらが周囲に抱く愛情こそが、「クロウカード」編クライマックスにおけるさくらの強さの源になるのですが、このシークエンスはそのことをも私達に提示しています。さくらの愛情、そして周囲の愛情、そこに育まれるさくらの強さ。こうした全てが昇華されて、初めて「絶対、だいじょうぶだよ」が真の意味を持つことができるのです。物語を最後まで見ればこのことは容易に理解できるのですが、それを敢えてさくらが見る幻覚の描写の違いという形で私達に予言した、スタッフの力量の確かさと作品に寄せる愛情の深さに、私は感銘を受けました。 もっとも、かく申す私は、初見当時とてもそこまで思い至りませんでした。言うまでもなく、この回は「大人のファンタジー」としての傑作なのです。主対象の視聴者である子供たちが少々置いてけぼりを食らわされた形になるのは、やむをえないとはいえ、若干心残りでもあります。彼らが大きくなってこの作品を見直す機会があったなら、この回のすばらしさに気づいてもらえればと思います。 |
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