このように、「チュチュ」には3層にわたる精緻な音楽世界が組み込まれており、それが画面には登場しないもう一人の主人公/語り部として物語を引っ張っていました。私が受け止められる範囲だけでこれだけあるわけですから、実際に演出サイドが織り込んだものはどれくらいあるんだろうと考えると、ちょっと気が遠くなります。
逆に、それだけ綿密に世界を作り込んだからこそ、普段アニメに触れる機会のない方にもこの作品の魅力が伝わるチャンスがあるともいえそうです。クラシック音楽に少しでも関心のある方には、何かといわれのある曲をこれだけ意味ありげに使われると、いったいなんだろうと思うはずです。基本的に原曲の意味に忠実な使用をしているだけに、音楽から「チュチュ」の世界に入るのは簡単ですし、演出のテクニックを味わう点でも楽しみが多いといえそうです。
だけど、「チュチュ」を見る人の多くはアニメファンやマニアの皆さん、少なくとも普段からアニメを見る機会が多い人達です(もちろん私もその一人です)。この方々の誰もがクラシック音楽に関心あり、なんてことはないでしょう。どちらかといえば、クラシック音楽やバレエなんて全然興味ないよ、という人が圧倒的多数ではないでしょうか。
そこで、制作スタッフはちょっとした工夫を凝らすことにした、と筆者は想像しています。ここで音楽のパートナーに代わってもらい、その工夫について考えてみようと思います。