OVA第4巻
"ケイトの記憶" 涙の奪回作戦

チーフスタッフ

脚本	星山博之	絵コンテ
演出	石崎すすむ	作画監督	芦田豊雄

メイン&サブキャラクター(今回登場分)

スコット	ロディ	バーツ	フレッド	ケンツ
ジミー	マルロ	クレア	マキ	カチュア
シャロン	ペンチ	ルチーナ	ケイト	ミューラァ

ものがたり
2060年・ククト星

ジェイナスの子供たちの旅が終わった後、地球政府とククトニアンリベラリストが樹立した臨時政府との間に休戦協定が結ばれたものの、依然として一触即発の状態が続いていた。そんな折、地球とククトの友好をアピールする式典がククト星で開催されることになり、この行事に招待されたジェイナスの子供たちは再びククト星に集合した。 ククト星の空港ロビーで、ロディたちはカチュア・ジミーと再会し、子供たちは改めて互いの友情を確かめあった。バスに乗り込む直前、ジミーは見物客の中にケイトの姿を一瞬見たような気がした。 歓迎午餐会のさなか、ロディは見知らぬ女性から呼び出しを受ける。ネラと名乗った女性は、ロディにミューラァが会いたがっていると告げた。翌日、ロディが教えられた場所に向かうと、しゃれた建物の中にミューラァその人がいた! 彼はロディに1枚の写真を見せた。写真の人物が上の部屋にいると聞いたロディが半信半疑でその部屋に入ると、そこには写真の人ケイトがいた! 驚き、そして喜ぶロディだったが、それはすぐに困惑に変わってしまう。ケイトはククト軍に救助されたものの、記憶を失っていたのだった。ロディから話を聞いたスコットとバーツもケイトに会いに行くが、結果は同じだった。彼らはこのことを黙っておくべきかと悩んだが、スコットの決断で他の子供たちにも全てを話すことにした。 ケイトが記憶喪失になって生きているという知らせに、悲しみに沈む子供たちだったが、ケイトに会いたいという気持ちは強かった。かくして、スコット一人を式典の留守役に残し、他の12人は宿舎を抜け出してケイトのもとへと急いだ。ケイトの姿を見て言葉を失う子供たち。そして見知らぬ子供たちの来訪に困惑するケイト。それでも彼女は、記憶を取り戻せるよう努力すると話すのだった。 子供たちは、ケイトをジェイナスに案内した。懐かしい場所に大喜びの子供たちだったが、ケイトの記憶は蘇らない。そこに子供たちを追った警備隊が迫るが、子供たちはロディの活躍で追跡を振り切った。 子供たちは、湖のほとりでキャンプを張ることにした。子供たちの努力もむなしく、ケイトの記憶は戻ってこない。もどかしさに一人涙するケイト。そして、子供たちのやるせない気持ちと共に、夜は更けていった。 翌日、子供たちは出発の時を迎えた。見送りに来たケイトやカチュア・ジミーに別れを告げる子供たち。子供たちのシャトルが動き出すと、エンジンの爆音でケイトの発作が始まる。しかし、その時ケイトの記憶が解き放たれ、彼女は自分の横にいる少女がカチュアであることに気づいた。 沈んだ表情でシャトルの窓を見るフレッドに、草原を走ってくるカチュアの姿が目に入った。やがて、カチュアが笑顔で手を振っていると知ったロディたちは、「すばらしいこと」が起こったことに気づくのだった。

ほうがんのこだわり

OVA第4巻では、ジェイナスの子供たちの後日談ともいえる物語が展開します。この話を成立させるために、少々無理な設定…ケイトとミューラァが共に生きている…をとったため、テレビ本編からはかけ離れた物語になったことは否めません(ミューラァの台詞にも、多分にこれを意識した物があります)。しかし、それを補って余りあるキャラクター描写と、セオリー通りとはいえ実に自然かつ無駄のないストーリーは、この作品を第一級のOVAとして見応えのあるものにしています。たとえ本筋ではないにせよ、これもまた「バイファム」なのです。 本編のラストシーンから1年後という設定のもと、子供たちは少しずつ成長しています。その一方、この作品における子供たちの役割や性格が基本的に本編と同じだったことは、作品にある種の安心感を与えています。歓迎午餐会での子供たちの描写を見て喜んだのは私だけではないでしょう。それから、スコットは(理由はどうあれ)キャプテンだし、バーツはやはり一歩引くことを忘れていない、といった描写が健在だったことが、子供たちの動作を生き生きとさせています。 子供たちの行動に、本編のエピソードを思い起こさせるものが多かったことも、作品の特色の一つといえるでしょう。夜になると始まる(?)枕投げや、シチュー鍋を持ってくるマキ、そしてケンツとジミーの交流などは、本編での描写を踏まえているが故に、一層味わい深い物となっています。また、その他大勢のキャラクターの中に、本編に登場した人物がちゃっかり登場するあたりも楽しめます。 なお、このOVAがバイファムの一部とならしめている最大の要因であるキャラクター描写については、各キャラクター毎にポイントを簡単にまとめていますので、そちらをご覧ください(上のキャラクター一覧からリンクしています)。 この物語が都合2泊3日(スコット・マルロ・ルチーナの3人は1日遅れで到着したため1泊2日)という限られた時間の中で展開されるという設定は、物語全体を引き締める、大きな効果を果たしています。その中に舞い込む、予想外の大事件。そして、その中で常に前向きに生きようとする子供たち。その姿は、テレビ本編で展開された彼らの行動と全く同じといっていいでしょう。 彼らは限られた時間の中で精一杯の努力を続けます。それがどう展開していったのか、ここで細かく述べる必要はないでしょう。おちびさんたちと遊ぶケイトを見つめるロディたち、たき火に木をくべるフレッド、一人ケンタウルスのお星様に願いを託すペンチ、意味も無く枝で地面に穴を掘るシャロン…台詞がなくとも、彼らの表情を見るだけで、彼らが何を考え、何を思っているのかが私たちにひしひしと伝わってきます。 そして、月明かりの中、水辺にたたずむケイトは、知らずのうちに髪を束ねる自分の手の動きにはっと息を飲みます。しかし、そこから先にはどうしても進めません。そう、彼らにもう少し時間があったなら… いよいよ子供たちの別れの時が来ますが、空港にもうミューラァは姿を見せません。彼は子供たちにケイトを託したまま、カードで独り占いをしています。最後にめくったカードを見て、彼は初めて心から微笑みます。こうしてさりげなく伏線を張ってから、場面はフィナーレへと向かいます。 もちろん、あんなに上手く事が運ぶなんて事は、普通では考えられません。御都合主義の台本と言われれば、その言葉を甘んじて受けざるを得ないでしょう。でも、ミューラァが語ったように、あの子供たちは「不可能を可能にしてきた」のです。そして、子供たちはそれを願い、それを信じて行動しました。 そんな彼らだからこそ許される結末、と私には思えてなりません。子供たちを知っているからこそ認められる物語。実に贅沢だとは思いますが、彼らにだけはそれが与えられて然るべき、というのはちょっと身贔屓に過ぎるでしょうか。 この作品は、バイファム全編を通しても屈指のBGMによる演出がなされています。ほとんどがこの作品用に新たに作曲されたものであり、実に豊かな表現がなされていました。 特にフィナーレで、沈んでいた子供たちがカチュアの表情を見て次第に事情に気づくという一連の場面では、場面の進行に合わせて本編での「13人ぼっち」のテーマから今回のテーマ曲である「つばさ」へと曲調が変化していきます(「永遠(とわ)に…」としてBGM集に収録)。ここでの物語進行とBGMとのシンクロナイズは見事で、視聴者を深い感動に包んでくれます。 子供たちに迫る追っ手を振り切るため、ロディは黄色いバイファムを操縦します。この作品唯一の本格的メカアクションシーンは、御都合主義的な設定という汚点が残る一方で、BL影を多用した重量感溢れる作画が印象的でした。 さて、この作品にはおまけとして「(通称)シカゴ・スーパーポリス13」という短編がついていました。主要キャラが刑事とギャング団に扮して繰り広げるポリスアクション、その合間に描かれるロマンス、そして最後に登場する酒場の光景という3つの部分からなるわずか数分の映像は、キャラクターの個性を巧みに活かした作品となっていて、当時のファンを熱狂させました。現在ではこの映像を見ることは至難の技ですが、もし機会があればもう一度鑑賞したいものです。